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ライタープロフィール

 
東良美季

東良美季

トウラミキ


 

1958年生まれ。
編集者、AV監督、音楽PVディレクターを経て執筆業。
著書
『アダルトビデオジェネレーション』(メディアワークス)
『猫の神様』(新潮社)他。

毎日jogjob日誌 by東良美季

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バックナンバー

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▶2012-03-15『ライター東良美季による店舗探索コラム』
サンブック稲城店〈後編〉

▶2012-02-21『ライター東良美季による店舗探索コラム』
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▶2012-02-07『ライター東良美季による店舗探索コラム』
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▶2011-12-12『ライター東良美季による店舗探索コラム』
ライブイン那珂店〈第4回〉

▶2011-12-05『ライター東良美季による店舗探索コラム』
ライブイン那珂店〈第3回〉

▶2011-11-28『ライター東良美季による店舗探索コラム』
ライブイン那珂店〈第2回〉

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ライブイン那珂店〈第1回〉

▶2011-11-07『ライター東良美季による店舗探索コラム』
未来書房・あすなろ書店〈後編〉

▶2011-10-31『ライター東良美季による店舗探索コラム』
未来書房・あすなろ書店〈中編〉

▶2011-10-27『ライター東良美季による店舗探索コラム』
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▶2011-09-12『ライター東良美季による店舗探索コラム』
東京書店・松原店〈後編〉

▶2011-09-08『ライター東良美季による店舗探索コラム』
東京書店・松原店〈中編〉

▶2011-09-06『ライター東良美季による店舗探索コラム』
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▶2011-05-23『ライター東良美季による店舗探索コラム』
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▶2011-05-16『ライター東良美季による店舗探索コラム』
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▶2011-04-18『ライター東良美季による店舗探索コラム』
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▶2011-01-20『ライター東良美季による店舗探索コラム』
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▶2010-08-22『ライター東良美季による店舗探索コラム』
華奈書店

 

COLUMN TITLE 投稿日:2011-12-12

ライター東良美季による
店舗探索コラム

ライブイン那珂店〈第4回〉

■そして2011年3月11日、午後2時46分に起こったことについて

入口を入って左手にあるスロット・コーナー。この奥の大きなガラスにヒビが入ったとのこと。

 3月に起こった東日本大震災では、多くの方々が甚大な被害に遭われた。それはもちろん、アダルトDVDを扱うお店も同様だ。僕は昨年夏からこの連載を始めた。たまたま廻らせてもらったのは関西から西日本の店舗さんが多かったのだが、あの地震が起きた時、まず最初に頭に浮かんだのはアダルトDVDショップのことだった。建物自体が倒壊してしまうことは免れたとしても、商品であるDVDはすべて床に落ちてしまうだろう。この〈ライブイン那珂店〉さんは、今回の東日本大震災で被害を受けたアダルトDVDショップのひとつである。東京に住んでいると、津波で亡くなられた方が多い岩手や宮城、そして原発事故の影響受けた福島ばかりが目立つような気もするが、茨城県も大きな被害を受けた。死者数は30名だが、負傷者は700人。つまり、それだけ揺れは強く、家屋の倒壊等で怪我をされた人が多いということだろう。

──これも毎回、各店長さんにお訊きしている質問なんですが、アダルトDVDが売れないと言われて久しいです。その辺りのことで、小売の現場にいらして、何かお感じになることはおありでしょうか。

「うーん、そんなに、言うほど『売れない』という実感は、僕にはないんですけどね、正直なところ。ただ、全体的に単価が落ちてますから、昔のことを知ってる人から言わせると、利幅も取れないし、一点当たりの単価が低いんで、数を売らないと以前の売上げにはならない。だから『売れない』と言われているんじゃないでしょうか。僕のようにセル店を始めて日が長くない者からすると、それほどでもないような気がするんですけどね。ただ、さっき言ったように単価が、このところのデフレで落ちて来たということで、以前と同じくらい本数売っていても、同じ程度では、売上げは自動的落ちてしまうということはあるんじゃないでしょうか。実際ウチは、先月も今月も、昨比は、DVDの販売に関しては、110%以上いってるんで」

──並木さんがこちらを始められたのが2年半前とのことですから、それ以降は、実はあまり変わってない、落ちていないと?

「と、僕は思いますよ。震災以降どうなるかなと心配はしてたんですが、逆に上がってます。ひょっとして近くで同業他店さんが、倒産したとか撤退したとか、そういうことがあったのかも、なんて考えますけど(笑)」

──そうそう、震災のこともお聞きしたかったんです。それはやはり、大変だったと思うんですが。

「そうですね、まず(レジ前の天井を指さして)ココの蛍光灯が台ごと2本ずつ、ドーン、ドーンと落ちて来まして。向こう(お店の奥)も1本、向こうも1本落ちましたね。それで一番奥(スロットの向こう)のガラスもヒビが入りました。それとエアコンの横も、壁に穴が開いてるんです。棚が向こうに倒れて。あと、もう商品は2/3は落ちました。ああ、写真ありますよ(と携帯の写真を見せて頂いた)。これが什器(店舗に於ける商用の棚、ショーケース、ラック等をいう)が倒れてる図ですね、商品はほとんど落ちてるでしょう(笑)。この什器は一本完全にダメになりました、完全に折れて。下の台は残ってますが、本来上にある棚はボキッと折れて」

──お店にいらしたんですか、あの3月11日2時46分は。

「ええ。ココ(レジカウンターの内側)でご飯食べてました。運が良かったのは、その5分前に、最後のお客さんが商品を買われて外に出た後やったんです。それで僕、遅いお昼を食べ始めたんです。だからお客さんに怪我が無かったんで、それが救いですね。もしも売り場の奥にお客さんがいらしたら、無事に誘導出来たかどうか、自信ないです」

──この辺りは震度、どのくらいだったんですか。

「うーん、6くらいだったでしょうか」

──体感としてはどうですか、立っていられないくらい?

「そうですね、何処かに掴まっていないと、という感じですね。で、まあ、一人だったので、お客さんのこと考える必要がなかったら助かりました。ひどくなり始めた頃に表に出て。長かったんですよ、揺れが」

──そうでしたね。東京でも長かった。

「最初はそうひどくは揺れなかったんです。だからココで様子見てたんですが。でも、途中でこれはアカンと。それでそこ(入口)の自動ドアの電気を切って、扉を開けたままにして外に飛び出しました」

──じゃあ、什器が倒れて商品が落ちていくのを目の当たりにされた?

「いや、脱出した時はまだ倒れてなかったんです。ゆるく揺れていて、でもだんだんひどくなったので。それで身の危険を感じて外へ出て、そこからですね、本当に激しい揺れになったのは。お隣の写真屋さんの壁面のガラスが、音立てて割れていきましたよ。パンパンパンッと」

──うわぁ、それは恐ろしいですね。

「ええ、ウチは幸いあそこの奥のガラスがヒビ入っただけで済みましたけど。で、やっと揺れが治まって、戻るともう棚は倒れて、商品は全部床に落ちて足の踏み場もない。それで蛍光灯は割れてるしという状況で、ひととおり地震が収まって、中に入って、笑いました。もう虚脱感で(笑)。笑うしかなかったですね。『これはもうどうしようもないわ』って」

──その後はどうされたんですか。

「もう停電にもなってましたし。これは当分営業は無理やなと。すべてをあきらめた、みたいな感じですね」

──あの3月11日2時46分を境に、日常がすべて寸断されてしまったような感じでしょうか。東京にいても近いものを感じましたから。

「そうですね。店締めて車の中に非難して、車のラジオでどういう状況なんやろうと、ずっと聴いてました。その時は震源地が何処かも判りませんでしたし、電話は一切通じない状況でしたから。それで2日、いや3日目か、やっと電気が通って。ただ、翌日からは公衆電話が無料で使えるようになったんです。そこから身内であったりとか、友人関係に取り敢えず『無事やで、生きてるから』と伝えて(笑)。それと取引先ですね。支払いが難しくなるかもしれないと。こういう状況で日銭が入りませんから。このぶんだと3週間は店開けられないだろうから、最悪1ヶ月伸ばして頂けませんかと、それを各取引先に連絡しました」

──携帯はもう全然通じなかったですか?

「携帯はね、かけるぶんにはまだ繋がることもありましたけど、受ける方はまったくダメで。しかも電気が来てなかったので、携帯は充電の問題がありましたから」

──ああ、そうか。停電だとダメですよね。携帯って、当たり前の日常じゃないと、急に不便になるんですよね。公衆電話か無料で使えたというのは?

「ええ、それはNTTが一斉に震災対応でそうしたそうです。携帯通じないし、充電も無理なので、この辺りも含め被災地にあるものはすべて、受話器を取れば『プープー』と鳴ってる状態になりました」

──そういうことがネットワークで出来るんですね。それは知らなかったな。

「ええ。だからウチの場合はそこ、店を出たところに公衆電話があるので、もう列が出来てましたね」

「震災で破損した商品は値引きします」の貼り紙。もちろんすべて調べて破損品は返品したそうだが、それでも中には割れた商品がまだあるため。

■ルールを徹底すれば、たった一人でローコストな店舗経営が出来る!

──ご家族はご無事というか、お怪我とかなかったんですか?

「いや、実家は京都なんで、親とかはそっちにおりますので」

──ああ、並木さんは独身でらっしゃる?

「そうです。ひとり者です」

──じゃあ、この那珂市で一人暮らしをされてるわけですか。

「うーん、エートですね(笑)。最初はもちろん落ち着いたらアパートを借りようと思ってたんですが、まずはこの裏に事務所がありましてそこに泊まってたんです。でも、何しろ11時開店の深夜1時まで営業なので。ひとまず目途が着くまではと思ってたのが、実は未だに続いてるんですよ」

──ハハア、でも、もうそれが長いですよね。

「ええ。ですからもう2年半になります。事務所には風呂はもちろん、トイレも流しもないですから。夜中はトイレ行きたくなったらわざわざセコム解除して、店のトイレに行くという生活です」

──そうか、そうですよね。朝の11時から深夜1時までお仕事されてるわけですから、部屋を借りる必要もない。まさに寝るだけですもんね。

 実は今回、そのことを何よりお訊きしたかった。
 冒頭に書いたように、この時期僕は書き下ろしの仕事に追われていた。茨城まで取材に出かけ、夜に東京へ戻って来ても、そこからはもう原稿は書けないだろうと思っていた。だからどうせならと営業のMさんに、「出来れば取材は午後4時スタートくらいにしてもらえませんか?」とお願いした。そうすれば朝5時に起きれば、出かけるまで6時間くらいは原稿が進められるかな、と思ったのだ。ところがMさんの答えはこうだった。
「いや、実はそれがダメなんです。〈ライブイン那珂店〉の店長さんはほぼお一人でやっておられるので、一番お客さんの少ない午後2時から4時頃にしかお話うかがえないんです。ですから東良さんもレジに立って頂いて、店長さんと並んでのインタビューになります」と。

──お一人でやっておられると聞いたんですが。

「ハイ、そうです」

──アルバイトの方もなしで?

「いえ、一人だけ、週3日来てもらってます。その時だけ、僕は半日休めるという」

──いやあ、それでも大変ですねえ。

「ええ、大変です(笑)。休みというのは、大晦日と元旦だけは店を完全に休みにしてるだけで、それ以外は年中無休なんで」

──うわあ、年にお休みは2日だけ! それで営業時間が午前11時から深夜1時までですよね。本当に大変だなあ。

「まあ、何とかやってます。それくらいしないと、現状、利益が出て来ないんで」

──うーん。実は僕も、今年に入ってまともに休んだことがないんです。不況で原稿料はどんどん下がっていくから、休むヒマが無いし、あったとしても使えるお金が無い(笑)。でも、並木さんのお話をうかがってると、僕なんかもっともっと頑張らなきゃダメなんだという気持ちになってきました。

「いえいえ、僕もお客さんの来られないヒマな時には、ココでノンビリ座って本読んだりしてますから(笑)。ただ、そういうやり方は2つ目に入った会社、セルのチェーン店Y社が完全にそうだったんです。70坪から100坪規模の店なんですけど、24時間営業、3交代制で、8時間ずつ1人で入るという。徹底したローコスト運営の会社でした。その代わり社長がしっかりした人で、無借金経営で、常に黒字で、株式会社化して。帝国データバンクが作ってる、全国の株式会社、経常利益プラスの上位3万社くらいには入ってたんですね」

──ウーン、なるほど。逆に言うとお仕事として面白いというか、たった一人でこれだけのお店(売り場面積70坪)を経営していけるわけですもんね。

「そうなんです。運営次第で、ルール作りがしっかりしていれば出来る。僕がY社で学んだのはそういうことでした。ただ、ルールの徹底に関しては本当にすごかったですよ。社員だけじゃないですから、アルバイトもその時間1人で入れていて。その代わり様々なルールがキチッと作ってあった。例えばレジの中に1万円札が5枚以上入っていたらペナルティとか」

──ああ、それは悪い人が来ちゃったら困るから。

「そうなんです。強盗が来る可能性がある、決してゼロ%ではないということを想定してる。たった1人で24時間、当然夜中もですから。レジのお金は盗られるもの、という前提に立ってる。だから万券はレジの中には入れておかない。別の置き場所を作る。しかもその場所は月1回必ず変えるというルール。棚卸しはこの日とこの日に必ずやりなさいとか。電気代節約のため、エアコンのフィルターは1日と15日に必ず掃除すること、とか。社員には定期的にテストがあって、それら100問中80問正解しないとアルバイトに降格。社員の権利を剥奪されるんです(笑)。そこでローコストとか、店の運営とかは、一人でやるにはどうしたら良いのかというのは、学びましたね」

──ウーン、それをデフレ時代の今じゃなく、2000年代初めに確立していたというのがすごいですね。やはりその社長さんには先見の明があったというか。

「その社長も、やはり元は試行錯誤が色々あったそうです。例えば3交代24時間営業でやった方が、むしろ遅刻が無くなったとか。それ以前は店が開いてないというトラブルが多かったらしいんですよ。それが、24時間でやってたら、次の人が来なければ帰れないという(笑)。あるいは自分達で何とかする。電話連絡を取るなり、仕方なく通しで入るなり。僕も急にアルバイトの子が不整脈で倒れて、4連勤で入ったことありますよ。早朝から通しで入っていて、夜中のバイトが来れなくて、さらに次の日の夕方まで、4×8=32時間ずっと店にいるという(笑)」

■経験して来た仕事のすべてが、今店を経営するための勉強だったかも?

中古アダルトDVDに関しては、店長自ら調達に行くことも。品揃えは充実している。

──なるほど、そうやって長年各社で培われて来たノウハウが、現在こうして、お一人でお店を経営出来る力になっているんですね。

「それは大きいです。各社でさまざまなことを教えてもらいましたから。まず最初のV社は、店を運営するうえで基本的なことを12年間学んだと思います。キチッとした仕入れの仕方、店舗のコントロールの仕方、そういうビジネスの基本は、V社で教えてもらいました。それが今、こうして独立して、一人で店やってるのに役だってます。いわゆる常識ですね。アダルトのお店なんだから、ざっくりした経営をしても良いというイメージが、何処かにあると思うんですよ。それはそれでダイナミックな部分もあるのかもしれないけれど、一般の小売業の常識からずれているところがある。それが、最初の12年間でしっかり叩き込まれたので、僕の中にはしっかり生きてる気がします。例えば仕入れのバイヤーをやってる時も、『接待は絶対に受けるな』というのを徹底されてました。要は接待に使ってもらえるお金が先方にあるなら、そのぶん商品の値段を下げさせろということなんです。ですからV社では、5円以上の接待は贈賄とみなされて解雇でしたから」

──へえ、それは本当に徹底してますね。

「ええ。V社ではそういう小売業の常識を教えてもらって、次のY社では、先ほど言ったローコストでセル店を運営するやり方であったりとか、ルールの作り方であったりとかを教えてもらいましたし、で、3つ目、あまり触れませんでしたけど、M社という、同族会社的なところだったんですけど、そこでは逆にゲリラ的というか、普通に経営する感覚では思い付かないようなアイデアを知りました。例えばそこは中古の本も扱うんですけど、近所でブックオフとかの新店がオープンする時って、必ず儲けを度外視した安売りをするんですよ、宣伝のために。だからアルバイト連れて行って、そういう安売り商品をザーッと、一人100冊とか買わせるんです。徹底した安売りだから、それに正規の値段付けて売っても、充分儲けは出るんですね」

──規模は違いますけど、個人経営の古本屋さんはよくそういうことをされると言いますね。〈背取り〉と言うんでしたっけ、古本市とかで掘り出し物を見つけて来て、自分の店で高く売るとか。あるいは目利きのない古書店が、それとは知らずに貴重な初版本に安い値を付けてたりすると、目ざとく見つけてきて高く売るとか。

「そうなんです。僕も今、中古DVDの在庫が少なくなった時とかは、けっこうやってます。この辺りの同業他店を廻って商品を手配する。お客さんが売りに来られるのを待ってるだけじゃダメなんで。それで最後のA社では、僕は内勤というか、財務系の数値を担当してましたので、その方面に強くなれたと思います。なので今はこうやって(と、カウンターの棚からバインダーを取り出して)月々の成績をPL表(損益計算書)で作って、売上げが幾ら、仕入れが幾ら、粗利が幾らで、人件費がこうで、販管費で、店舗の損益が幾らになってるかと、細かく自分で作ってます。これを確定申告の時に合計すれば、簡単に出来るので。こういうのも、経営をしつつ、イチから勉強するのは大変やと思うんですよ。だからまあ考えてみれば、大学卒業してV社に入って以来、4つの会社を経験して来ましたが、結局はこうして自分が店をやるための、すべてが勉強やったんかなあ、なんて思いますね(笑)」

■休み無く黙々と働く。しかしその大変さが、大きな充実感に繋がる

ツーショット・カードとアダルトグッズのコーナー。まさに『大人の妄想スーパー』である。

 並木店長が見せてくれたバインダーに挟まれたPL表は、細かい数字がプリントされたパソコンで作られたものだが、裏側が透けて何かが印刷されているようだった。「これは何の紙を使ってるんですか?」と訊くと、「ああ、コレ? コレは選挙の時の」と笑う。民主党か自民党か、候補者の写真入りの選挙運動に使うチラシだった。経費削減のため、裏紙を使っているとのこと。そして僕は、こうしてお話をうかがっていて、ずっとお訊きしたいと思っていた質問をしてみた。

──あのう、コレはとても失礼な質問になるかもしれませんが、去年の大晦日と、明けた今年の元日しか休まれてないんですよね。「そんなに仕事ばかりして、何が楽しいの?」と言われたりしませんか? というのは、実は僕もそうなんです。今年の頭に書き下ろしの新刊を出すので、去年は年末年始通して休みませんでしたし、その後、今も続いてるんですがまた書き下ろしの仕事に入って1日たりとも休んでないんです。まあ、疲れて何も出来なかったという日はあるんですが。でも、だからと言って決して儲かるわけではない。遊ぶヒマはないし、旅行なんて絶対に行けない。時々「何やってんだろう、オレ」なんて思うんです。だから僕以上に大変なお仕事をたった一人でされている並木さんに、そこのところをうかがいたいんです。

「ウーン、確かにそうですね。他人からしたら、『アイツ、何が面白くてやってるんやろ?』と思われるかもしれませんね(笑)。ホンマに代わり映えしない生活です。朝起きて銀行行って店開けて、夜中までですから。ただ、それでも店が終わるのが午前1時、寝るまで1時間、2時間、DVD観たり、録画したテレビ番組を観ながらお酒飲む時間はあります。それが至福の時と言うか(笑)、大変なぶんだけその時間はホッと出来ます。だから他の人とは比べられへんけれど、自分は充実してるなあって思います。ものすごく充実した仕事をさせてもらってる。それと、アルバイトの子が来てくれる時っていうのは、大抵お風呂に行くんです。銭湯です。ちょっと前までは近所に健康ランドがあったんですが、震災で潰れちゃったんですね。だから隣のひたちなか市というところまで行きます。車で20分くらいかなあ。そういうわずかな時間というのが本当に楽しいですね。それはやはり、自分が充実した仕事させてもらってるからやと思うんですね」

──ああ、判ります。僕も仕事を終えてビール飲みながら、って言っても発泡酒より安い新ジャンルですが(笑)、HDD録画しておいた、ドラマやお笑い番組なんかを観るのが何よりの楽しみなんです。仕事がハードな時ほど、ちょっとのお酒で酔ってしまうし、すぐに眠くなって、でもそうすると「ああ、オレ、今日はけっこう頑張れたかな」なんて思う。確かにその充実感は、何物にも代えがたいですね。最後に、これも各店長さんに必ずお訊きしてる質問なんですが、このご商売を通して学ばれたことと言いますか、大げさかもしれませんが、培われた〈哲学〉みたいなものはありますでしょうか?

「うーん、哲学いうんは難しいですけど。ただ単純に、この仕事してて嬉しいと思うことはあります。すごく単純ですけど、お客さんにひと言、『ありがとう』と言ってもらった時ですね。別にたいしたことしたわけやないんです。例えば探し物でも、お客さんに訊かれて、たまたま僕に知識があって、『ああ、それやったらコレじゃないですか』と、店の棚から持って来ただけでも、それでもお客さんは『あー、コレコレ。ありがとうね』と言ってくださる。これは嬉しいですね。あとは店始めて2年半、銀行からの借り入れ金の支払いが5年なんです。だから残り半分のガマンやと思ってます。それを返し終わったら、毎月その返済金が丸々手元に残りますから、そうしたら今より少しは楽になるかなと、それを楽しみに日々頑張ってる、そんな感じでしょうか。それと僕、やっぱりアダルトビデオいうのが好きなんやと思います。この業界が好きというかね、そういうものを求めてるお客さんも好きやし。気取りがないというか、本音ばっかりでしょう、女の人が好きやとかエロが好きやとか、綺麗な女優さんが好きやとか、潔いというかね。そういうものに関わってることが、やっぱりホッとするというか、僕には合ってるんやないかなあと思います(笑)」

 空前の不況ということもあるだろうし、世の中の変化ということもあるのだろう。僕個人の、ココ2、3年の忙しさは尋常じゃなくなっている。長年AV情報誌を初めとした、マイナーなエロ系雑誌に文章を書いて来たのが、その雑誌自体がどんどん潰れて無くなった。幸いなことに半面、単行本を出させてもらう仕事をいただき、何とかやっているが、けれど一冊書くのに少なくとも3ヶ月、4ヶ月、長くなると1年はかかる。しかもこれは運良くベストセラーにでもならなければ、とても生活していけない。だからほぼ1年中休みなしで働かなくてはならない。そうでもしなければ家賃すら払っていけないのだ。先に書いたように、旅行になんてとてもいけないし、時間の面でもお金の面でも、友人と会って酒を飲むことすら出来ない。
 そんな中で今回、〈ライブイン那珂店〉の並木店長にお会いした。そして同じようにアダルトビデオを観ながら青春時代を過ごし、そして現在に至る人が、自分以上に頑張っておられるのを知った。これは書き下ろしの佳境にあって、本当に励みになった。改めてお礼を申し上げたい。ありがとうこざいました。お邪魔したのは8月17日。猛暑の夏、ということもあったが、それ以上にまだ、3月11日以降の余震が続いている日々だった。今、これを書いているのは11月15日。少なくとも東京では、地震を感じることは少なくなった。
 書き下ろしは無事脱稿し、著者校も終わり、後は12月の発売を待つばかりとなったが、僕の生活は何も変わらない。変わったことがあるとしたら、HDD録画して仕事終わりに観るNHK朝の連ドラが、『おひさま』から『カーネーション』になったくらいである。朝から晩まで原稿が書けた日は、この夜中の15分が愛おしい。アッという間に眠くなってしまい、さて明日も頑張るかと床に就く。そして、「ああ、並木店長も今頃お店を閉め、美味い酒を飲んでおられるかな?」と想像するのである。

明るい一般コーナーから、ディープなアダルトコーナーへ。『大人の妄想スーパー』の入口。

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This column is written by 東良美季.
 

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